2016年度第3回支部例会は12月10日(土)、初冬ではありますが暖かな日和のなか神奈川県藤沢市の日本大学生物資源科学部で開催されました。同キャンパス内の211講義室にて、午後1時より西村敏英支部長の開会の辞の後、シンポジウム「腸管機能、食品・栄養研究の最前線」ならびに2016年度日本農芸化学会賞、2016年度農芸化学技術賞、2016年度農芸化学奨励賞の受賞講演が行われました。

 今回のシンポジウムでは、日本大学生物資源科学部の高橋恭子先生による『腸内共生系の恒常性維持と炎症反応の制御』、東京農工大学大学院の中島啓先生による『食と腸内細菌代謝産物による宿主エネルギー代謝制御』と題するご講演が行われました。
 腸管は、栄養素の消化・吸収の場であると同時に生体内最大の免疫器官であり、そこに棲息する腸内細菌の種類やその代謝産物が肥満や糖尿病など生活習慣病と密接に関連することが近年明らかにされ注目されています。高橋先生は、消化管内で過剰な免疫反応を抑えて膨大な数の腸内細菌が排除されることなく共生できる仕組みについて、腸管上皮細胞のマイクロRNAや抗菌ペプチドを中心にご自身の最新の知見を用いて講演されました。
 中島啓先生は、摂取した食物繊維由来の腸内細菌代謝物である短鎖脂肪酸や、食用油、リノール酸、αリノレン酸に代表されるω6-、ω3-脂肪酸の腸内代謝脂肪酸による生理機能への影響について最新の研究成果を紹介され、これらの脂肪酸受容体を介したエネルギー代謝制御および脂肪組織の炎症制御など、腸内代謝物と生活習慣病に関する新しい考え方をご紹介いただきました。

 2016年度農芸化学技術賞を受賞された農研機構食品研究部門、九州大学農学研究院、JAかごしま茶業、アサヒ飲料を代表して、農研機構食品研究部門の山本(前田)万里先生は、「健康機能を有する緑茶「べにふうき」の効果、作用機序、茶葉特性の解明並びに飲食品の開発」について講演されました。抗アレルギー作用を有する茶品種を選抜し、作用成分としてメチル化カテキンを同定しました。その作用メカニズムの解明に加えて、メチル化カテキンを高含有する『べにふうき』を用いてスギ花粉症やダニアレルギーに対する効果を検証し、製品開発に結び付けた受賞内容についてご講演いただきました。

 キッコーマン株式会社の仲原丈晴先生は、同社が受賞された「醸造技術の革新による血圧降下ペプチド高含有醤油の開発」について講演されました。キッコーマンは、諸味中の麹菌酵素活性をコントロールし、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害ペプチドを豊富に含有する醤油加工品の製造法を確立しました。ACE阻害ペプチドの単離同定、ヒト試験による血圧降下作用の評価に加えて、醤油類で初の特定保健用食品(トクホ)を開発した受賞内容についてお話いただきました。

 藤原大介先生は、「ウイルス感染防御機能を持つLactococcus lactis JCM 5805の発見と事業応用」で農芸化学技術賞を受賞されたキリン株式会社、小岩井乳業株式会社を代表して講演されました。抗ウイルス免疫を担うプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)に着目し、100種を超える乳酸菌株の中からpDC活性化作用を有する3種の株を発見しました。そのうちの一種JCM 5805については、ウイルス感染防御機能とその作用機構を解明しました。さらにこれらの知見に基づいてヨーグルト製品、清涼飲料製品及びサプリメントを開発した経緯についてもご講演いただきました。

 農芸化学奨励賞を受賞された農研機構食品研究部門の大池秀明先生は、「食品・栄養成分と生体概日リズムの相互作用に関する研究」について受賞講演を行いました。体内時計と内因性概日リズムについて解説された後、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種であるレスベラトロールが培養細胞の概日リズムを変化させること、マウスに高食塩食を摂食させると、中枢時計は変化しないが、肝臓、腎臓、肺などの末梢時計が前進すること、マウスにカフェイン溶液を飲用させると濃度依存的に概日行動リズムが伸長することなど、大変興味深い最新の知見をご紹介頂きました。さらに、食事による末梢体内時計のリセット機構、時差ボケモデルによる肥満の誘導と食事時刻固定による肥満予防についても講演されました。

 日本農芸化学会賞を受賞された東京大学大学院 佐藤 隆一郎教授は、受賞題目「コレステロール代謝制御の分子細胞生物学研究」についてご自身のこれまでのキャリアをもとに講演されました。特に、学位取得後、大学の職を辞して留学されたテキサス大学Goldstein博士、Brown博士(1985年ノーベル賞受賞者)のもとでコレステロール代謝研究への造詣を深められたこと、そのご経歴そのものがコレステロール代謝研究の歴史につながっていることに一同感銘を受けました。さらに細胞内コレステロール代謝を制御するSREBPの新しい活性化機構など、現在進展している多くのご研究の内容についてもご紹介いただきました。

 今回の支部例会には126名の方々にご参加いただき、講演内容に関する質疑応答も活発に行われ、食品機能研究のあり方や、新しい研究の方向性についても議論することができました。閉会の辞においては、浅見忠男副支部長が本日の例会の総括をされ、また若い学生参加者に対する期待とエールを送り閉会となりました。引き続き同キャンパス内「スエヒロ」で開催された懇親会にも多くの参加者があり、例会の余韻がさめるまもなく参加者同士の懇親を深め大変有意義な時を過ごしました。末筆ではありますが、ご講演いただきました先生方、支部例会の開催・運営にご協力いただきました皆様に感謝申し上げます。

(関泰一郎)

会場の様子

支部長挨拶

シンポジウム講演

受賞講演

副支部長挨拶

懇親会後の集合写真

案内ちらしのPDFファイル

reikai2016-3