プログラム

第1回 5月20日(金)
  「食べ物のおいしさ ~うま味と旨み~」
  西村敏英(日本獣医生命科学大学・教授)
第2回 5月27日(金)
  「食物と免疫、アレルギー」
  上野川修一(東京大学・名誉教授)
第3回 6月24日(金)
  「食品の機能性はどうやったら調べられるのか?」
  清水誠(東京農業大学・教授、東京大学・名誉教授)
第4回 7月1日(金)
  「食を巡る微生物の光と影 ~チーズと麹から考える~」
  別府輝彦(東京大学・名誉教授)

 「農芸化学」分野を多くの方に知ってもらうための事業として、一般の方を対象とした公開講演会を企画することとした。今回は、日本獣医生命科学大学において開催される「総合文化講座」で、農芸化学に関する総合テーマ「農芸化学的アプローチから食品を科学する」を共催事業とし、農芸化学会員による講演会を開催した。ご講演して下さる先生として、日本農芸化学会会長ご歴任者の上野川修一先生、清水誠先生、別府輝彦先生に、「食」をテーマとしたご講演をお願いした。4回の講演には、多くの参加者があり、のべ参加者数は355名であった。

 第1回の講演は、農芸化学分野を紹介するため、支部長の西村が担当させていただいた。農芸化学会のリーフレットを配布すると同時に、スライドを使って、参加者に対して農芸化学をわかりやすく紹介した。「農芸化学」は、生命、食、環境をキーワードとした「化学と生物」領域に関わる現象を科学する分野を指しており、産業と密接した研究を実施して、その成果を広く社会に発信し、貢献していることを解説した。その後の講演では、食べ物のおいしさに重要なうま味物質の発見、産業への応用、並びに食べ物のおいしさにおける役割を解説した。また、「うま味」と「旨み」の違いを、体験を通して学んでいただくと同時に、牛肉のおいしさを例として、その違いを解説した。

 第2回の講演では、上野川修一先生が、「食物と免疫、アレルギー」を大変わかりやすくご講演された。最初に、ヒトの生体防御システムである免疫系、特に、重要な働きをしている腸管免疫を概説された。免疫系の働きは、食物、加齢、ストレスなどの影響を受けることを説明された。また、アレルギーは、免疫系が不調になり、本来攻撃しないはずの自分の組織・器官を攻撃してしまう時に生じる現象である。食物でも特定のものによって、特定な人がアレルギー症状を呈する。一方、ω-3脂肪酸、ポリフェノール、乳酸菌により、アレルギー症状を緩和、低減できることを紹介された。最近では、免疫系の維持やアレルギーの抑制に腸内に生息する細菌の種類や数のインバランスが関係することを解説された。

 第3回の講演では、清水誠先生が、「食品の機能性はどうやったら調べられるのか?」をテーマとして、実例をご紹介しながら、わかりやすくご講演された。「特定保健用食品」や「機能性表示食品」の誕生から定着するまでの過程並びに、現状を解説された。その中で、これらの機能性食品の最も重要な点は、その製品の機能性(効果効能)や安全性が、培養細胞を用いたin vitro実験や動物試験、ヒトでの臨床試験など、各種の実験や調査で科学的に検証されていることであると説明された。また、これまでのトクホの開発例や新しい手法による機能性表示食品の開発例について、「機能性の評価法」をわかりやすく解説された。

 第4回の講演では、別府輝彦先生が、「食を巡る微生物の光と影 ~チーズと麹から考える~」をわかりやすくご講演された。目に見えない微生物と私達の「食」とは切っても切れない深い関係にある。身近な食品である酒、味噌、醤油、漬物、パン、チーズなどが、微生物による醸造・発酵で生産されることから、微生物が食の光の役割を担っている。一方、昔なら赤痢、コレラ、今でも病原性大腸菌による食中毒など、微生物が時によって食を通して私達の生活に暗い影を投げかけていることも確かであると解説された。ご講演では、西洋のチーズと日本の麹という、それぞれ長い歴史と優れた特徴を持つ発酵食品を通して、微生物の光と影を大変わかりやすく解説して下さった。

 各講演の最後に回答していただいたアンケートでは、いずれのご講演も「大変興味深い内容であった」あるいは「大変わかりやすかった」とのコメントを頂き、大変好評であった。また、農芸化学の重要性並びに面白さをわかっていただけたと思った。今後も、関東支部では、このような公開講演会等を通して、本会の活動内容を発信してゆきたい。

会場の様子

講演会全体の様子

西村による講演の様子(第1回)

上野川先生によるご講演の様子(第2回)

清水先生によるご講演の様子(第3回)

別府先生によるご講演の様子(第4回)