若手優秀発表賞受賞者

【ポスター発表の部】(5名)
鈴木祥太(東京大・生物工学セ)
枯草菌におけるEF-Tuのアシル化修飾による翻訳制御機構の解析
田中翔太(理研・CSRS/明治大院・農芸化学)
植物成長促進化合物PPG及び植物カルス誘導剤FPXのケミカルバイオロジー解析
塚越まどか(筑波大・生命環境)
糸状菌Aspergillus nidulansのアミノ酸生合成制御を介したNO耐性機構
永野愛(東京大・生物工学セ)
Corynebacterium glutamicumにおける短鎖アシル化修飾を介したホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)の機能調節
政田尚子(東農大院・農)
コレステロール生合成阻害活性を有するDecarestrictin H、Jの合成及び立体化学に関する研究

【口頭発表の部】(1名)
有澤琴子(お茶大院・ライフサイエンス)
脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成と脂肪滴サイズの関連性

ポスター発表の部

鈴木祥太(東大・生物工学セ)

枯草菌におけるEF-Tuのアシル化修飾による翻訳制御機構の解析
鈴木祥太、古園さおり(東大生物工学セ)
 アセチル化に代表されるタンパク質のアシル化修飾は、バクテリアからヒトまで進化的に保存された翻訳後修飾であるが、バクテリアではその機能の多くが未だ明らかにされていない。枯草菌を対象としたアシローム解析から、代謝酵素に次いで翻訳関連因子がアシル化修飾の主な標的となっていた。そこで、翻訳伸長因子Tu(EF-Tu)に焦点を当てて、アシル化の機能解析を行うこととした。EF-TuはLB培養の対数増殖期で強くアセチル化され、定常期に移行すると脱アセチル化される一方、スクシニル化は徐々に強くなる傾向が観察された。アシローム解析から枯草菌EF-Tuに11か所のアセチル化部位と6か所のスクシニル化部位が同定されていた。これらのアシル化修飾の機能を明らかにするために、それぞれの修飾部位に対し変異を導入し細胞増殖への影響を観察した。その結果、EF-Tuのドメイン3におけるスクシニル化修飾模倣変異株(KE3)で増殖速度の低下が観察された。また、KE3変異株についてin vitroの翻訳系で翻訳活性を調べた結果、野生株に比べて低下がみられ、それに対応する非修飾模倣変異株(KR3)では野生株と同じ活性を維持していた。以上の結果より、枯草菌EF-Tuのアシル化修飾は培養フェーズによって変化し、特に定常期におけるEF-Tuのドメイン3のスクシニル化が翻訳をネガティブに制御している可能性が示唆された。

田中翔太(理研・CSRS/明治大院・農芸化学)

植物成長促進化合物PPG及び植物カルス誘導剤FPXのケミカルバイオロジー解析
田中翔太1,2、藤岡昭三1、久城哲夫2、長田裕之1、篠崎一雄1、浅見忠男3,4、中野雄司1,41理研・CSRS、2明治大院・農芸化学、3東大院・農化生、4JST CREST)
 植物成長をポジティブに制御する新規化合物の探索を目的として、アラビドプシスの胚軸伸長を指標にし、理研NPDepoライブラリーのケミカルスクリーニングを行った。その結果得られた化合物FPXは暗所条件において胚軸伸長阻害活性を示すだけでなく、明所条件においては野生型のアラビドプシス、イネ、ポプラ、ダイズなどの様々な植物種においてカルス形成を引き起こした。そこでアラビドプシスのカルスの内生成分についてLC-MSで解析した結果、FPXは植物体において加水分解を受け、CPXとPPGに代謝されることが明らかとなった。アラビドプシス胚軸切片による活性解析を行った結果、CPX単剤でカルス形成の活性を持つことに加え、CPX/PPG共処理条件でカルス形成が促進される傾向が観察され、PPGはカルスの増殖促進活性を持つと考察された。次にPPG単剤条件下においてアラビドプシスを明所約3週間生育させた結果、葉面積、側根数が約200%増加し、明瞭な成長促進活性が観察された。PPGは既知の植物成長促進剤とは全く異なる化学構造を持つ化合物であり、その活性が植物器官の形態を歪にすることなく大きくする活性を持つことは、PPGが植物成長の新たなメカニズムを明らかにするための有用なツールとなるだけでなく、実用的にも有用な機能を持つ化合物であることを期待させる。現在、PPGのターゲットタンパク質の探索を行っている。

塚越まどか(筑波大・生命環境)

糸状菌Aspergillus nidulansのアミノ酸生合成制御を介したNO耐性機構
塚越まどか、桝尾俊介、周勝敏、高谷直樹(筑波大・生命環境)
 一酸化窒素(NO)は、強い細胞傷害性をもつ活性ラジカルであり、自然免疫系による病原菌の感染防御の機能を持つことが知られるが、病原性真菌のNO応答については不明な点が多い。本研究では、モデル真菌であるAspergillus nidulansの多コピー型遺伝子ライブラリーを本菌に導入することで、真菌の生育のNO耐性に関わる遺伝子を探索した。これまでに、NOジオキシゲナーゼ、新規なニトロソ化ペプチドであるニトロソチオネイン、酸化ストレス耐性に関わる転写因子NapAなどのNOの解毒に関わる因子を見出すことができた。一方、プロリンの生合成に関わるProCが本菌の生育のNO耐性に関与することが見出された。また、NO存在下ではプロリンや他のアミノ酸の細胞内濃度が減少し、培地へのプロリンの添加によってプロリン生合成能欠損株(proA)のNO感受性が回復した。一方、本研究で見出したNO耐性遺伝子rbgBSaccharomyces cerevisiaeにおけるオルソログは、アミノ酸生合成の一般制御に関わると予想されている。A. nidulansrbgBとアミノ酸生合成関連遺伝子argBprnBの転写はNOにより活性化されており、アミノ酸一般制御に関わる転写因子cpcAの欠損はNO感受性を引き起こした。以上の結果から、NOが引き起こすアミノ酸の飢餓への応答・適応というアミノ酸代謝系の新たな役割が明らかとなった。

永野愛(東京大・生物工学セ)

Corynebacterium glutamicumにおける短鎖アシル化修飾を介したホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)の機能調節
永野愛1,2、水野裕太2、西山真1、古園さおり11東大生物工学セ、2協和発酵バイオ)
 タンパク質の翻訳後修飾の一つである短鎖アシル化修飾は、代謝や栄養状態に応答したタンパク質の機能調節に関わると考えられている。C. glutamicumは、Tween 40添加などにより菌体内の代謝フラックス変化が起きグルタミン酸生産が誘導されることが知られているが、その詳細なメカニズムは未だ明らかにされていない。当研究室では、グルタミン酸生産誘導条件においてアセチル化の抑制およびスクシニル化の促進を見出しており、短鎖アシル化修飾の変化が代謝フラックスに影響を及ぼすことが示唆されている。私たちはグルタミン酸生産時に比活性が増加する補充経路のPEPCに着目しアシル化修飾部位の変異解析を行った。これまでに、Tween 40添加条件及び非添加条件間でアシル化修飾量に変動が見られたリジン残基について変異導入を行ったところ、アセチル化模倣KQ変異によりグルタミン酸生産が著しく減少するリジン残基を見出した。大腸菌で発現・精製した変異体を用いて詳細な酵素学的パラメータを評価した。その結果、KQ変異体では非アセチル化模倣KR変異体と比較してkcatが大きく低下していたことから、PEPC活性はアセチル化により負に制御されることが示唆された。また、KR変異体はWTやKQ変異体よりもアスパラギン酸に対して低い感受性を示した。以上の結果から、アシル化修飾がPEPC比活性の変化に関与していることが示唆された。

政田尚子(東農大院・農)

コレステロール生合成阻害活性を有するDecarestrictin H、Jの合成及び立体化学に関する研究
政田尚子、下平雄一郎、上田彩恵子、勝田 亮、矢島 新、額田恭郎(東農大院農)
 Decarestrictine H及びdecarestrictine Jは1992年にPenicillium属の培養液から単離、構造決定された2箇所の不斉点を持つ10員環ラクトンであり、コレステロール生合成阻害活性を有している。本化合物群は従来のコレステロール低下剤であるスタチンと類似した部分構造を有しているが、詳細な作用機構は解明されていない。またdecarestrictine Hは7位及び、9位の立体化学が未決定である。我々は本化合物群の構造活性相関の解明及びdecarestrictine Hの立体化学の決定を目的とし、本研究に着手した。
これまで知られている本化合物群において9位の立体化学はいずれもRであることから、本化合物も(9R)-体であると仮定し、(7S,9R)-及び(7R,9R)-体の合成を行った。C1-C5カルボン酸と、(7S,9R)-及び(7R,9R)-C6-C10アルコールを山口法によりエステル化した後、閉環メタセシス反応を行い(7S,9R)-及び(7R,9R)-体の合成を達成した。これらのうち(7S,9R)-体の1H、13C-NMRスペクトルは天然物と一致した為、本化合物の立体化学を7,9-anti体であると決定した。また、上記化合物の二重結合を水素化することによりdecarestrictine Jも合成したので併せて報告する。

口頭発表の部

有澤琴子(お茶大院・ライフサイエンス)

脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成と脂肪滴サイズの関連性
有澤琴子1、市育代2、満留悠3、藤原葉子21お茶大院・ライフサイエンス、2お茶大・基幹研究院、3お茶大・食物栄養)
 脂肪滴は形成初期には小型であるが、脂肪の蓄積に応じて肥大し大型化することが知られている。大型の脂肪滴に特徴的な脂質組成は、大型脂肪滴の形成や安定化に有利な生物物理的な性質を持つ可能性があるが、脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸組成と脂肪滴サイズの関連性についての報告は少ない。本研究では、NIH3T3細胞に脂肪滴融合タンパク質FSP27を安定発現させ、大型脂肪滴のモデル細胞を作製した。FSP27細胞およびコントロールのmock細胞から脂肪滴を分画し、得られた脂肪滴の脂質抽出物を用いて脂肪滴様のエマルションを形成させた。すると、FSP27細胞の脂肪滴を用いた際に顕著に大型のエマルションが得られた。この結果から、脂肪滴の脂質組成そのものが大型脂肪滴を形成するために有利な性質を持つことが示唆された。そこで両細胞から得た脂肪滴の脂質組成を比較すると、FSP27細胞では脂肪滴膜リン脂質に飽和脂肪酸が多いという結果が得られた。膜リン脂質の脂肪酸組成がエマルション形成に与える影響を調べるためにジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)を用いてエマルションを形成させた。その結果、DPPCを含んだ場合にのみ正球型のエマルションが得られたことから、大型のエマルションや脂肪滴の形成・安定化には、膜リン脂質の飽和脂肪酸鎖が影響していることが示唆された。